- 「家庭裁判所の離婚調停をしきってる調停委員って、どんな人なの?」
こんな疑問に答えます。
アヤ
離婚調停で離婚を目指すとき、キーマンになるのが調停委員(家事調停委員)です。
離婚調停をはじめとする家事調停は、運営する人が法律で決められています。
- 裁判官1人
- 調停委員2人(男女各1人ずつ)以上
裁判官が調停期日に参加するのは、調停の成立や終了など重要な局面だけです。
大まかな方針は裁判官と調停委員で話しあっていますが、実際の進行は調停委員が行います。
「離婚調停が順調に進むかどうかは、担当の調停委員次第」と言われるくらい調停委員の影響は大きいんです。
そのため、離婚調停を利用するなら調停委員について最低限の知識は持っておきたいところです。
そこでこの記事では、調停委員の基本的な情報について分かりやすく解説します。
- 調停委員(家事調停委員)ってどんな制度なのか知りたい
- どんな人がどうやってなるのか知りたい
目次
調停委員とは
調停委員とは、調停制度において調停委員会を構成する非常勤の裁判所職員(国家公務員)です。
調停というのは、裁判所が実施している「当事者同士の話し合いによって問題を解決するための制度」です。
調停委員は、裁判所に申し立てられた調停事件について、当事者が合意できるように調整したり解決案(調停案)を示したりします。
また、自分が担当する事件以外でも、専門知識や経験に基づいて意見を述べたり調査したりするケースもあります。
調停委員ができないこと
調停委員は、国家公務員として裁判所関連法が適用されます。
また、事実上は国家公務員法その他の規則や政令の影響を受けます。
「公共の利益」のために仕事をする義務を負い、活動に一定の制限を受けるのです。
制限事項 | 制限内容 |
選挙活動 | 非常勤の国家公務員の地位を利用して選挙活動すること |
利益供与 | 調停の当事者から職務上の利益供与を受けること
違反すると収賄罪 |
守秘義務 | 職務を遂行する中で知り得た情報や評議内容を外部に漏らすこと
違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金 (評議の場合は30万円以下の罰金) |
通常の国家公務員と異なるところ
調停委員は、調停委員として裁判所で勤務しているとき以外は、民間人として社会生活を送っています。
調停委員でいるとき以外は国家公務員としての制限を受けず、経済的活動や政治的活動をしても問題ありません。
例えば、調停委員をしながら民間企業に勤務したり自営業をしたりできます。
調停委員の職務外であれば、政治的行為をすることも認められています。
実際、調停委員しか仕事のない人は限られていて、会社役員、お寺の住職、自営業者などをしている人が大半です。
調停委員の種類
日本には、3種類の調停委員がいます。
- 民事調停委員
- 家事調停委員
- 労働争議の調停を担当する調停委員
それぞれの調停委員の職務は、次のとおりです。
調停委員の種類 | 民事 | 家事 | 労働 |
根拠法令 | 民事調停法 | 家事事件手続法 | 労働関係調整法 |
担当事件 | 民事事件 | 家事事件 | 労働争議に関する調停 |
一人が複数の調停委員を兼ねることもあります。
例えば、民事調停委員が家事調停委員を兼任することは珍しくありません。
特に、地方の裁判所や支部では、調停委員の確保が難しいのえ3兼任が一般的になっています。
家事調停委員とは
家事調停委員とは、家事事件手続法に基づいて、家事事件に関する調停をする調停委員のことです。
家事調停をする人
- 家庭裁判所は、調停委員会で調停を行う。ただし、家庭裁判所が相当と認めるときは、裁判官のみで行うことができる。
- 家庭裁判所は、当事者の申立てがあるときは、前項ただし書の規定にかかわらず、調停委員会で調停を行わなければならない。
引用:家事事件手続法第247条
家事事件手続法第247条は、調停委員会が調停を行うことと定めています。
「ただし書」及び第2項のとおり、裁判所が相当と認めめたときは裁判官のみで調停を行うことができます。
でも、当事者の申立てがあれば、調停委員会で調停をする必要があります。
家事調停委員会の構成員
1 調停委員会は、裁判官1人及び家事調停委員2人以上で組織する。
引用:家事事件手続法第248条第1項
第248条は、調停委員会の構成員について「裁判官1人と調停委員2人以上」と定めています。
「2人以上」と書いてありますが、男女各1人の調停委員と裁判官1人の3人になるのが一般的です。
調停員の数が3人以上になるのは、異動や退官など特別な場合に限ります。
アヤ
家事調停委員になるには(任命基準と定年)
家事調停委員は、「民事調停委員及び家事調停委員規則」に定められた要件を満たす人の中から、最高裁判所が任命します。
民事調停委員及び家事調停委員は、弁護士となる資格を有する者、民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢40年以上70年未満のものの中から、最高裁判所が任命する。ただし、特に必要がある場合においては、年齢40年以上70年未満の者であることを要しない。
引用:民事調停委員及び家事調停委員規則第1条
原則として、調停委員に任命されるのは、40歳以上70歳未満の人です。
特に必要がある場合は、例外的に40歳以上70歳未満の人以外を任命できます。
でも実際のところ、70歳以上の人が調停委員に任命されることはほぼなく、事実上の定年は69歳です。
職業の要件については弁護士以外は記載されていませんが、一般的には次のような職業の人が選ばれています。
要件 | 具体例 |
弁護士となる資格を有する者 | 弁護士、元検察官、元裁判官(司法試験合格者)など |
民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者 | ・元裁判所職員
・医師・ ・司法書士 ・社会保険福祉士 ・精神保健福祉士 ・臨床心理士 ・一級建築士 ・不動産鑑定士 ・税理士 ・公認会計士 ・SEなど |
社会生活の上で豊富な知識経験を有する者 | 地域貢献度の高い定年退職者、一般人など |
調停委員に任命されている弁護士は一定数います。
でも、実際に調停事件を担当している弁護士はほとんどいません。
離婚弁護士の中には「調停委員の経験がある」という人がいますが、実際に調停委員として仕事をした経験のある人はわずかです。
調停委員の報酬が低く、弁護士として働いた方がはるかに儲かるからです。
それでも一定数の弁護士が調停委員に任命されるのは、次のような事情があるからです。
- 社会的ステータスになるので弁護士が自ら希望する
- 裁判所から「なり手がいないから」と頼まれてやむを得ず引き受ける
弁護士以外の専門職についても、同じ傾向があります。
積極的に調停を引き受ける専門職の調停委員がいると、何十件もの調停事件が一人に割り当てられることも珍しくありません。
家事調停委員になるには(欠格事由)
調停委員候補者が欠格事由に当てはまる場合、どれだけ優れた知識や経験があっても調停委員には任命されません。
次の各号のいずれかに該当する者は、民事調停委員又は家事調停委員に任命することができない。
- 禁錮以上の刑に処せられた者
- 公務員として免職の懲戒処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
- 裁判官として裁判官弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者
- 弁護士、公認会計士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、弁理士、建築士、不動産鑑定士若しくは不動産鑑定士補又は社会保険労務士として除名、登録の抹消、業務の禁止、免許の取消し、登録の消除又は失格処分の懲戒処分を受け、当該処分に係る欠格事由に該当する者
- 医師として医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第七条第二項の規定により免許を取り消され、又は歯科医師として歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第七条第二項の規定により免許を取り消され、再免許を受けていない者
引用:民事調停委員及び家事調停委員規則第2条
【簡単に書くと】
- 禁固以上の刑罰を受けた
- 公務員で懲戒処分を受けてから2年未満
- 裁判官だった人が罷免の裁判を受けた
- 本業で懲戒処分を受けた
- 医師免許を取り消されたなど
裁判所の事件を担当する以上、前科や本業で問題のある人が任命されないのは当然ですね。
アヤ
家事調停委員の任期
家事調停委員の任期は、2年(開始は4月1日または10月1日の年2回)です。
民事調停委員及び家事調停委員の任期は、2年とする。
引用:民事調停委員及び家事調停委員規則第2条
ただし、全国的に調停委員が不足しているので、一度任命された調停員はよほど問題がない限り更新されます。
- 調停委員が辞職を希望する
- 違法行為があった
こうした特別の事情がなければ、10年以上も続けるベテラン調停委員も多いです。
特に、専門的な知識や経験を有する調停委員は貴重です。
また、人が変わると一から教育する必要が生じます。
そのため、裁判所が調停委員に更新を求めることもあるようです。
家事調停委員になるには(応募の有無や必要な資格)
調停委員は、公募制ではなく推薦制です。
また、調停委員になるのに特定の資格は必要ありません。
現役調停委員または専門家団体に「この人は調停委員にふさわしい」と推薦され、裁判所の選考を経て調停委員に任命されます。
調停委員の推薦団体には次のようなところがあります。
- 弁護士会
- 司法書士会
- 税理士会
- 医師会
- 商工会議所
- 民生委員児童委員協議会
- 大学など
自分を推薦する「自薦」も認められており、実際に一定数の自薦者が調停委員に任命されています。
また、現役の調停委員が知人を推薦するケースや、裁判所が調停委員に推薦を依頼するケースもあるようです。
家庭裁判所は、家庭裁判所長や裁判官などで構成される「調停委員選考委員会」を開催し、調停委員を選びます。
書類選考と面接選考の2段構えで、推薦されてきた人の中から調停委員候補者を選び、最高裁判所に任命上申をします。
原則として、調停委員に欠員が出た場合に新しい人を補充しますが、事件数や予算などを考慮して選好が行われています。
家事調停委員の報酬
調停委員の報酬は、次のとおりです。
- 1件(半日):8,650円
- 1日の上限額:1万7,250円
家事調停委員は、離婚などの家庭紛争にどっぷり関わる仕事です。
思い通りに調停が進行しないと、当事者から不満を述べられるなどストレスの多い仕事なので、決して高いとは言えません。
心理系の援助職の報酬と比較しても、かなり安い金額です。
家事調停委員の報酬・定年・なり方のまとめ
離婚調停の運営をしている家事調停委員は、私たちと同じ民間人です。
調停委員になる方法と報酬 | 説明 |
任命基準と定年 | ・職業:専門職や地域貢献度の高い人
・年齢:原則40歳以上70歳未満 |
欠格事由 | 禁固や懲戒免職など |
方法 | 推薦制 |
任期 | 2年(更新可能) |
報酬 | ・1件(半日):8,650円
・1日の上限額:1万7,250円 |
自分の離婚に大きく関わる調停委員がどんな人なのか、ぜひ知っておきましょう。
アヤ