- 離婚後に旧姓に戻す手続きってどこでどうやるの?
- 旧姓に戻すのに「やむを得ない理由」がいるって聞くけど、何のこと?
その疑問、記事を読めば5分で解決します。
あや
離婚すると、原則として旧姓に戻ります。
結婚中の苗字を使い続けたいときは、離婚した日から3ヶ月以内に「婚氏続称の届出」をすれば結婚中の苗字を使い続けられます。
婚氏続称の届出というのは、結婚中に使っていた苗字を離婚後も使うことを認めてもらう手続きです。
あや
でも、離婚から3ヶ月経った後に「やっぱり結婚中の苗字を名乗りたい」と思っても、婚氏続称の届け出はできません。
また、「婚氏続称の届出をした後にやっぱり旧姓に戻したい」と思っても、無条件では旧姓に戻れません。
こうした場合、家庭裁判所に「氏の変更許可」という審判を申し立てて許可してもらう必要があります。
離婚以外で苗字の変更を希望する場合も同じ審判を申し立てなければなりません。
- 苗字を変えたい人
苗字には「氏」「名字」「姓」など呼び方がたくさんありますが、この記事では「苗字」で統一します。
あや
離婚後の苗字と戸籍のこと
最初に、結婚と離婚による苗字と戸籍の変動について書いておきます。
離婚して苗字や戸籍が変わるかどうかは、結婚で苗字が変わった人と変わらなかった人で違います。
- 結婚で苗字が変わった人(結婚相手の戸籍に入った人)
- 結婚で苗字が変わらなかった人(結婚中の戸籍の筆頭者)
結婚で苗字が変わらなかった人(結婚中の戸籍の筆頭者)
法律上の結婚をした夫婦は、夫または妻どちらかの苗字を名乗る必要があります。
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
引用:民法第750条
結婚で苗字が変わらなかった人は、離婚した後も苗字はそのままです。
婚姻届を出さない夫婦(事実婚の夫婦)の場合、夫婦2人とも苗字も戸籍も変動しません。
したがって、離婚したときも苗字や戸籍が動くことはありません。
あや
結婚で苗字が変わった人(結婚相手の戸籍に入った人)
結婚して苗字が変わった人は、離婚すると原則として旧姓(結婚前の苗字)に戻ります。
民法767条第1項には、「婚姻前の氏に復する(復氏)」と規定されています。
婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
引用:民法767条第1項
ただし、期限内に「婚氏続称の届出」をすれば結婚中の苗字を使い続けることができます。
戸籍にも、結婚していたときの苗字が記載されます。
戸籍についても、結婚中に入っていた戸籍から結婚前の戸籍に戻る(復籍)のが原則です。
ただし、次のような事情があれば、結婚前の苗字に戻った人を筆頭者とする新戸籍が作成されます。
- 父母の死亡などで婚姻前の戸籍が除籍された
- 新しい戸籍の編製の申出をした
- 婚氏続称の届出を行う
新戸籍が編成された後に結婚前の戸籍に戻ることはできません。
一方で、結婚前の戸籍に復籍した後に新戸籍を編成することはできます。
氏の変更許可の審判とは
氏の変更許可とは、戸籍上の氏名のうち「苗字」を変更する家庭裁判所の事件です。
別表第1事件という事件に分類されていて、必ず裁判所が審判をします(当事者の話し合いでは解決できない)。
注意したいのは、氏の変更許可の審判だけでは苗字は変わらないということです。
氏の変更を許可する審判を得た後、市区町村役場に氏の変更届を提出し、受理されて初めて苗字の変更が実現します。
氏の変更許可の法的根拠
氏の変更許可は、戸籍法第107条第1項に規定されています。
やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
引用:戸籍法第107条第1項
氏の変更許可の審判の申立て
「氏の変更許可」審判の申立てについて解説していきます。
申立人
戸籍の筆頭者です。
配偶者がいる状態で苗字を変更するときは、戸籍の筆頭者とその配偶者が一緒に申し立てを行います。
外国人の父母をもつ日本人も申立てができます。
その場合、子供が15歳未満なら法定代理人(親権者など)が申立てを代理します。
戸籍の筆頭者と配偶者がいずれも除籍されているときは、市区町村役場で分籍の手続を行います。
そうして申立権者が戸籍の筆頭者になった後に、氏の変更許可の審判を申し立てる必要があります。
申立先(管轄の家庭裁判所)
申立人の住所地の家庭裁判所です。
申立ての必要書類
- 申立書
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書):1通
- 申立人の戸籍附票または住民票:1通
- 氏の変更の理由を称する資料
- 同意書:1通
あや
申立てにかかる費用
- 収入印紙:800円分
- 郵便切手:数百円分
郵便切手の金額と枚数は、各家庭裁判所が個別に決めています。
そのため、申し立てる家庭裁判所に事前確認する必要があります。
あや
戸籍謄本(戸籍記載事項証明書)について
①離婚後に復籍した(旧姓に戻った)か②婚氏続称の届出をしたかで提出する戸籍謄本が異なります。
復籍 | 婚氏続称の届け出 |
・現在の戸籍謄本
・婚姻中の戸籍謄本(除籍、改製原戸籍) |
・婚姻前から現在までの全ての戸籍謄本(除籍、改製原戸籍) |
同意書について
申立人(戸籍の筆頭者)の「氏の変更」が認められると、同一戸籍内の全員の苗字が変更されます。
そのため、申立人が筆頭者の戸籍に15歳以上の子供がいる場合、苗字が変更されることへの意見を確認する必要があります。
同意書に定型書式はありませんが、次のような内容を記載することが必要です。
- 「戸籍の筆頭者の氏が「○○」と変更されることにより、自分の氏も「○○」と変更されることに同意する」という趣旨の内容
- 同意書の作成年月日
- 作成者の署名・押印
申立書の書き方(記載例)
裁判所ウェブサイトに掲載されている記載例を参考にします。
記載する内容が分からない場合は空欄にしておき、家庭裁判所の窓口で担当職員に確認しましょう。
出典:裁判所
申立書の理由欄には苗字を変更する「やむを得ない事由」を記入する必要があります。
書き方次第で「氏の変更」が認められるかどうか変わるケースもある重要な部分なので、次の項目で書き方を詳しく確認していきます。
苗字を変更する「やむを得ない事由」
家庭裁判所に苗字の変更を許可してもらうには、苗字を変える「やむを得ない事由」があると認めさせなければなりません。
私たちの苗字は、個人を特定・識別するための標識という重要な役割があり、自由な変更が認められると社会的な混乱を招きます。
例えば、借金した人が苗字を簡単に変更できたらどうでしょうか。
お金を貸した人は、苗字や名前などでお金を貸した相手を特定して取り立てることが難しくなりますよね。
そのため、苗字を変更できるのは「やむを得ない事由」があるときだけに限定され、家庭裁判所の許可まで必要になっているのです。
「やむを得ない事由」は、申立人の事情によって個別に判断されます。
でも、過去の判例から一定の基準を知ることができます。
通姓に対する愛着や内縁関係の暴露を嫌うというような主観的事情を意味するのではなく、呼称秩序の不変性確保という国家的・社会的利益を犠牲にするに値するほどの高度の客観的必要性を意味すると解すべきである」
引用:札幌高裁昭和41年10月18日
判例では、「やむを得ない事由」を「高度の客観的必要性」としています。
簡単に言い換えると、「苗字を変更しないと社会生活に著しい支障をきたす事情」ということです。
したがって、離婚後に苗字の変更を求める場合、今の苗字を名乗り続けることで生じる不具合を具体的に記載する必要があります。
例えば、職務上支障がある、親子で苗字が違うと子供の学校生活に影響が出るといった事情を書くわけです。
婚氏続称の届出をした後に旧姓に戻ることを希望する場合の「やむを得ない事由」
「婚氏続称の届け出をしたけどやっぱり旧姓に戻りたい」という理由でした「氏の変更許可」審判は、一般的な申立てよりも「やむを得ない事由」が緩やかに判断されます。
理由は3つです。
- 離婚後は旧姓に戻る(復氏)のが原則
- 氏の変更を認めることによる社会的影響が少ない
- 客観的な必要性を欠くものではない
ただし、婚氏続称の届出をしてから何年も同じ苗字を使い続けていた場合、「やむを得ない事由」が厳格に審査されるケースもあります。
旧姓に戻りたい場合の「やむを得ない事由」の例文
氏の変更許可審判の申立書に記載する「やむを得ない事由」の例文を示しておきます。
- 申立人は、平成●●年に里子半太郎と婚姻し、長男全太郎をもうけました。
- 申立人は、令和元年●月●日に里子半太郎と離婚しました。
- 離婚時、長男全太郎が高校在学中だったので、申立人は婚姻中の氏(里子)を名乗ることにしました。
- 現在、長男全太郎は大学を卒業して社会人になったので、婚姻前の氏である「今野」に変更する許可を求めます。
- 長男全太郎は、申立ての趣旨のとおり氏を変更することに同意しています。
必ず書いておきたいのは次の3つです。
- 結婚して苗字が変わったこと
- 離婚した後に婚氏続称の届出をしたこと
- 旧姓に戻したいこと
これらを簡単に書いておけば、「やむを得ない」と言える事情がなくても許可されます。
氏の変更許可の審理と審判
申立てが受理されてから1~2週間が経過すると、家庭裁判所から照会書(兼回答書)が届きます。
照会書には、氏の変更の事情を求める事情に関する質問が書かれているので、回答を記入して署名・押印して返送します。
提出期限は2週間程度で、それまでに回答しないと家庭裁判所の担当職員から電話が入ります。
家庭裁判所が氏の変更を認める審判を出した場合、自宅に審判書謄本が届くので審判の内容を確認します。
告知の日(審判書謄本を受け取った日)の翌日から2週間以内に即時抗告しなかった場合、審判が確定します。
氏の変更届
戸籍上の苗字を変更するには、氏の変更を許可する審判を得てから市区町村役場に届け出る必要があります。
届出人
戸籍の筆頭者です。
届出人が結婚している場合は、戸籍の筆頭者と配偶者です。
配偶者が除籍されている場合は、戸籍の筆頭者のみが届け出ます。
届出先
届出人の本籍地か所在地の市区町村役場です。
戸籍担当窓口(名称は市区町村役場によって異なる)が受付窓口となっています。
届出の必要書類
- 氏の変更届出書:1通
- 戸籍謄本(全部事項証明書):1通(本籍地と所在地が同じ場合は不要)
- 家庭裁判所の審判書と確定証明書:1通(家庭裁判所で交付)
- 認印:シャチハタは不可
- 届出人の顔写真付きの身分証明書:届出時に提示
氏の変更届出書は役場でもらいます。
ウェブサイトから書式をダウンロードできる自治体もあります。
家庭裁判所の審判書は、審判後に申立人(氏の変更届の届出人)宛に郵送されます。
確定証明書は、審判が確定した後(審判の告知日の翌日から2週間が経過した後)に家庭裁判所の窓口で交付を受けます。
その他、追加で提出を求められることがあります。
届出に費用はかかりません。
氏の変更の効果
氏の変更届が受理されると、同一戸籍内の全員の苗字が変更されます。
氏の変更届をした人に配偶者や子供がいる場合は、配偶者も子供も届け出た苗字に変更されることになります。
氏の変更許可のまとめ
私たちの苗字は個人を特定するという重要な役割を持っており、簡単に変更できません。
例外的に、離婚してから3ヶ月間は婚氏続称の届け出ができますが、期間が過ぎたから苗字を変えるには氏の変更許可審判が必要になります。
審判で許可されるには「やむを得ない理由」が必要で、もっともな理由がないと苗字の変更は認められません。
そのため、離婚した後も結婚中の苗字を名乗り続けたいなら早めに婚氏続称の手続きをしておくべきです。
また、離婚後3ヶ月以上経ってから苗字を変えたいなら、家庭裁判所が認めるようなやむを得ない事情を準備しておく必要があります。
申立てをしてから考えたのでは遅いので、事前に「どのような事情なら認められるのか」を調べておきましょう。